その他.大学教員の副業の場合
元々は常勤教員でした。
最初はもちろん、このままで起業できれば一番ラクだと思っていました。
自分は正直お金もいらないので、教務課程として必要なプロセスだし、稼ぎを全部大学に入れるぐらいなら、これでいけるんじゃないかと思いました。
また自分の雇用に決定権の有る教授からも、とにかく常勤にしておいてほしいと説得されました。
さらに事務方からも、なんとか常勤でやれないかというご協力をたくさんしてもらいました。
これぐらい周囲がみんな前向きで恵まれた状況でしたが、結局のところ、少なくとも大阪大学では、ルール上は常勤教員で起業することはできませんでした。
ということで、非常勤です。
こうなると、色々なメリットやデメリットがでてきて面白いです。
またこれは、あくまでも自分の目的の一つに、「学生の状況を模倣して、最もハードルの低い、一人起業をしてみる」
という縛りをつくったからであり、社長を別に立てて自分は役員兼業であれば常勤のままでも可能です。
色々とわかりましたので、まとめようと思います。
兼業規程
少なくとも阪大では、「兼業ハンドブック」があり、非常にわかりやすくなっています。
兼業できる時、できない時があり、いろんなケースに関して書いてあります。
原理的には、「職務専念義務」との折り合いになります。
阪大教員は、税金で給料が払われています。
また、裁量労働制であり、一日に1時間はたらいても、24時間働いても、同じ給料です。
すなわち、「夜の自分の時間に仕事するんだから兼業じゃなくて副業ですよね?」
みたいなことができません(夜も裁量労働の範囲なので)。
よって、「実働」があるかないかがポイントになってきます。
逆に、「報酬の有無」はそれほど重要では無かったりします。
この観点から、役員はいいけど、社長だけはダメ、となるようです。
「社長で働いてないってありえない」ということだそうです。
なので、他に社長を立てれば、役員兼業として可能です(もちろん可能な条件を満たせば)。
なお上記の理由により、「自営」は基本的にダメです。
なので、個人事業主はもってのほかです。働きまくりなので。
ただし、例外として、家業を継いだりする場合は認められるそうです。
総じて、税金で働いているという観点からも、特にルール自体がおかしいとは思いませんでした。
ただ、そうはいっても時代的に日本は厳しい状況です。
「これはダメだ」というルールもよくわかりますが、「どんどんイケ!」といわんばかりに、
大学教員をもっと社会でこき使って役立てるようなルールに改善する余地はあるかなとは思いました。
大学教員の事業に関わるおもしろい雰囲気
少なくとも阪大で、兼業について調べるときに、「どこに(誰に)聞けばいいのか?」ということに関する答えはありませんでした。
これはとても面白いと思いました。
まず、正しくは、兼業規程です。
この規程に合っていればOKで、ダメならばダメです。
ただ、「じゃあこの場合は?」とか、「微妙にこうなんだけどなんとかならない?」とか、そういうときには、どこかの裁量で決めることになると思います。
それを決める人が明らかではないんです。
まあ言ってしまえば、事務方の係長以上であればハンコを押して進める裁量はあると言えばあるとは思いますが、そこに判断を任せるのは辛いと思います。
少なくとも、何か咎められたときに「あの係長がOKっていいました」とは言いたくないですし、そのため、係長もOKとは言えないでしょう。
もちろん産学連携の先生方が常に強力にサポートしてくれるのですが、多くの先生が非正規、なんなら非常勤です。
責任とるとかそういう立場ではないようにも思います。
咎められる場合は、大体は社会に咎められるわけですが、社会における善悪は時間的に変わります。
例えば、昔は阪大も社長OKでした。
なので、今の教授でも社長を兼業している人が残っています。
しかし、「公務員なのに自分だけ儲けるのはせこい」という風潮があった時に、厳しくなったそうです。
一方で、最近の経産省のレポートを見ると、もっと事業に関わるべきなのにルールが足を引っ張っている、という趣旨の報告が多いです。
すなわち、社会的にお金を稼ぐことが、善→悪→善となりつつあります。
逆にいえば、ここでOKを出した時に、もうすぐ悪になりかねない、その時に、その判断が咎められる可能性がある、みたいな恐れがあります。
公務員でそれをやると、殺人級に咎められるので、判断が下せない。
みたいな状況に思いました。
個人的には、実際のところ殺人級に咎められるわけではないでしょうし、
きちんと説明すれば良いだけのように思いますが、たぶん特に日本文化としては簡単ではないかも。
もう少しどこか低い位置に(理事とかだけじゃなくて)明確に一旦責任のある場所を置いて、そこに決定権とリーダーシップがあることが必要なのだと思いました。
非常勤の社会保険
常勤から非常勤になると、これも気になると思います。
しかし、何が変わるのかを聞いてもいまいちちゃんと説明してくれる人はいません。
特に、自分のケースのように、常勤から非常勤(週30時間)への変化はそれほど多くはないです。
最高の印象がある国家公務員共済から落ちていく雰囲気があるので、不安も大きくなりがちに思います。
この見えない不安によってフットワークが悪くなっている気もします。
なので、自分のケースに関して紹介します。
結論から言うと、少なくとも自分にとっては、生死や幸せという意味ではあまり変わらないように思います。
次もちょっと前提知識ですが、社会保険とは、健康保険(病院とか)と年金(高齢者時)です。
社会保険(会社などで働いている)に入っていない人は、国民健康保険と国民年金に入りますので、日本人は社会保険or国民保険、ということになります。
社会保険の中には、公務員の「共済」と、大企業の「組合健保」、それ以外の会社員などの「協会けんぽ」の3種類があります。
自分のような非常勤(週30時間)のケースでは「協会けんぽ」に加入することになります。
共済の場合は、自治体などによって少し違い、組合健保は会社によって少し違いますが、
健康保険も年金も基本的なことはほとんど変わらないです。
健康保険は基本的なことはあまり変わりません。
3つのいずれであっても、病院に行けば同じぐらいちゃんと安くなります。
健康保険の中で最も違う点は「付加給付」だと思います。
「共済」や「組合健保」では、だいたい「1カ月の自己負担額は2万5千円が上限」などと決まっています。
どんなに高くても、2万5千円なのは驚きです。
正直、各人で「今のため」に、任意の医療保険に入る必要性はあまりないです
(資産運用としての意味はあります。
また保険の効かない先端医療や老後のためという意味は大きいです。
あとは、社会保障制度の破たんに備える、というのも大きいかもです。沢山意味ありますね)。
こうなると、「協会けんぽ」はかなり不利な気にもなっちゃいます。
ただ、実は誰であってもそもそも「高額療養費制度」というのがあって、
所得によって違えど、ざっくりいうと10万円+[医療費の1%]です。
つまり、1千万円の医療費でも、10万円+10万円=20万円、となります。
まじっすか?という感じですが、実際にそうでした。
まあ1千万円程度の医療を受けることはまずないと思いますが、
それでも20万円ぐらいで済むので、大して変わらないと言えば変わらないなと思えます。
高い、と思うこともできますが、気にしなければ、生死や幸せには影響しないレベルと思います。
ちなみにそんな時には医療保険が効いてくると思いますので、その意味でも。
それにしても、なんて保障の効いた社会なんでしょうね・・・。
医療費無料のイギリスなどでは、それによって病院に行ってもその日には見てもらえないと聞きます。
日本は高度な医療がその日にうけられて、この保障です。
そりゃあお金足りないわな、としみじみ思います。
ちなみに、共済も組合健保もほとんどのところが赤字で、破たんしています。
組合健保の中には協会けんぽより悪くなったので協会けんぽに移行、というのも増えているそうです。
あとは年金ですが、これも大して変わらないです。
違いは、まずはちょっとだけ共済や組合健保が安いというのがあります(健康保険と年金を含めた保険料)。
給与の1%ぐらいは違ってくるかもしれません。
この違いは大きい、と思うこともできますが、やはり気にしなければ、生死や幸せには全然影響しないレベルと思います。
基本的に日本の年金は3階建て構造をとっていて、
1階は国民年金で、全国民が同じです。
2階は厚生年金で、社会保険に入っていれば、国家公務員共済でも協会けんぽでも変わりません。
ここまでが公的年金です。
そして、3階は勝手にやっているもので、ここに違いが出てきます。
要するに退職金などです。
2階までは国の制度なので平等な話ですが、3階はもはや勝手にやっていて給料みたいなもんなので、
給料を貯めといてくれた、という感じかと思います。
これは、非常勤、というか常勤でも非正規(特任教員等)ならばどのみち、自分で貯めることになるかと思います。
※以上のことで注意していただきたいのは、非常勤(週29時間)と、非常勤(週30時間)が大きく違うところです。
週30時間以上だと大学で協会けんぽにはいります。
非常勤は最大で30時間なので、非常勤としてのフル勤務だと、協会けんぽです。
それ未満だと、国民保険となります。
非常勤のエフォート管理
ここでは、大学教員のエフォート管理、特任教員のエフォート管理、非常勤のエフォート管理、と説明したいです。
こういうの、そこそこハードルだったりしますので。
エフォート管理とは、どういうタスクに何%だけ働いているか、ちゃんと管理せよ、というものです。
例えば研究費を申請するときには、研究Aに30%、研究Bに30%、日ごろの教育業務に40%、などと宣言して申請します。
ここで、特任教員はちょっと辛くなります。
正規の教員は、全てが業務なので良いのですが、特任教員はタスクを特定されて雇用されています。
それは大きなプロジェクトの場合が多いです。
一方で、個人で取得する科研費などの場合は、それとは独立である必要があります。
すると、特任教員のタスクと異なってきます。
プロジェクトのために税金で雇われているのに、別の研究に時間を使ってはいけません。
なので、「こういう理由でこれらは別のモノだが、お互いに利益があるので職務も満たしている」
みたいなことを説明し(実際にそうなので)、例えば20%などを上限として、研究をしたりします。
ちなみにこれすらも許可しないと、研究業績の無い教員はキャリアを続けられないので、若い才能をつぶすことになって社会の損失だと思います。
しかし、それすらも許されない場合があります。
たとえば教育プログラムなどだと、研究していると「おい教育せえや」となります。
私は6年間そういうプログラムで働いてきました。
しかし教育と言っても研究を教育するわけであって、研究も運営していない人がこれを務められるわけもなく、
おかしな話でやはり社会的損失だと思いますが、
まあそういうルールにしないと理解が得られないというのもわかります(変えていきたいですけど)。
すなわち研究者なので、研究せずに業績が無いと、次の研究ポストはありませんが、研究するために給与が出ているわけではないというジレンマがあります。
このために、特任教員はいろんな方法で頑張らないといけません。
一つの方法として、間接経費でエフォートを買う、という方法があります。
実は「給料10%に減らしてもらっても構わないので、10%のエフォートを科研費に使いたい」というのは通りませんでした。
大学の規程で給料が決まっているからです。
しかし、「間接経費で給料の10%をはらい、メインプロジェクトのお金で給料の90%を払う」は可能です。
なんとかなるものですね。
そして非常勤の場合は少し異なります。
そもそもエフォートは、「一週間でどれだけ働いたかの実際のところ」みたいなかんじです。
だとすると、一日の実質労働が8時間の人と、12時間の人では変わってくるはずです。
しかし、常勤は裁量労働なので、どっちにしたってダメです。
ところが、非常勤はちゃんと時間が決まっています。
毎日、出勤と退勤を押しますので、それ以外の時間は自由です。
すなわち、「自分の月曜日は、8時間はプロジェクトで有給で働いた後、5時間は科研費の業務を無給で行います」みたいな話が通ります。
ものすごく自由度があがります。
もちろん、科研費での研究を労働と考えると、無給なのでブラックですが、
やりたくてやっているなら便利ですね。
ちなみに、やりたくてやっている、というのは日本ならではらしく、自分はかなり好きです。
そこに給料は出てなくても、やりたくてやっているし、自分の血肉となって間接的に別の給料につながるし、
やりたいことやって社会に役立つならハッピーだと思います。
あと一点、非常勤になると申請できる研究費が減るので注意です。
特に、企業からの奨励金などはほとんどのものが申請できなくなります。
それでも、こういう状況をサポートしたいと考える企業様もあり、
状況を説明するとOKといってくれるところもあります(通るかどうかはわかりませんが)。
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