事業を始めるための情報共有 (→Homeに戻る)
※ほとんどの情報は2019年4月当時です

ansangaを始めた理由の一つに以下があります。 私のような何も知らないアカデミア人材が、研究時間以外の限られた時間の中で、要領よく社会を学びたい。 そして学生にも学んでほしい、という気持ちがあり、大阪大学に事業化の科目を作りました (ご尽力くださった日本学術振興会および大阪大学研究推進産学連携部のご担当者様、誠にありがとうございました)。 なんでもいいので「実際に起業して運営してみる」ということをすれば、要領よくわかるはずです。 しかし、教科書的なものがありませんでしたので、自分で起業してマニュアル的なものを作ることにしました。 ということで、ここで共有したいと思います。 (注:起業するだけでは単位認定に該当しません。活動の証拠が必要です。)

ここの情報は主に個人事業主での起業であり、事業化としては非常にレベルの低い話です。 それは、とにかく自分のような起業を経験したことのない人間にとってハードルの低い話にしたいからです。 ベンチャー(ガンガン投資してもらって大きくしていくことを目指す起業)を目指すという場合には、 大学の産学連携などにたくさんの前例や情報がありますので、そちらをおたずねくださいませ。 「博士は一般的な社会人よりも周囲が見えていない」というのを避けるため、 最も簡単な基本を身に付けることを目的としています。 また、低いレベルのすそ野が広がれば、全体としての事業に対する意識も高まり、 大きな事業を目指すような人も増えてくるだろうという期待もあります。

※起業が偉いとか、大きな事業を目指せば偉いとか、そういうことを言っているのではありません。 そういった人が少ないため、割合としてはもう少し増えたほうが面白いのではないかと思うのと、 それを目指さなくても社会の流れを感じることはタメになるだろうと思う、ということです。
※基本的にはココにある情報だけで個人事業主をやっていける必要十分を目指していますが、 リクエストがあればできる限り対応したいと思います。
※自分は「マンガでわかる個人事業の始め方:糸井俊博」という本を読んで進めました。 ここで足りない情報は是非この類の本を読んでみてくださいませ。

マニュアル(目次)

とりあえず今のところはめっちゃ簡単です。プロセスは以下です。詳細は下記です。

1.事業を考える(どんな社会にしたいか、誰に何を提供してお金を稼ぐのか)
2.開業の手続きをする(書類3枚、作成から提出まで1日もかからない)
3.実務上の準備(HPなど。既に活動といっていい)
4.運営する(モノやサービスを提供してお金をもらう)

その他
・大学教員の場合(本などに載ってないので少し詳しく)

1.事業を考える(構想や準備)

経営理念を考える

自分が事業をしなかったときの未来の社会と、自分が事業をしたときの未来の社会で、何が違っていたらうれしいのかを考える。 「このままではいかん」とか「こうすればもっといいのに」というのがすなわち、「社会にどんな影響を与えたいか」ということだと思います。 それで、「社会にどんな影響を与えたいか」を、自分の目線だけでなく、「消費者や社会からの目線でも考える」。 例えば、あんさんがでは、「多くの人が自分なりに考えたり生み出したりして行動する社会に」とか、 「閉じた分野や価値観にとどまらない自由なアイデアと行動が広がる社会に」とかを考えて、 消費者目線から、「自分で"人類初"を考えて行動する」とか、 「能力や資金の不足などに悩まされず挑戦する」とか、を考えました。 ということを考えて、できたものを以下の事業計画と共に事業概要に載せています→ リンク


事業計画、ビジネスモデルを考える

経営理念に向けて、A.自分にできること(何があって何が無いか、自分の棚卸し)、B.ビジネスモデル(誰に、何を、どのように提供するか)、C.競合との差別化、を考える。

A. 自分の棚卸し
自分ができること、自分が持っている知識・経験・人脈、自分の強みと弱みって何かなあと考える。 例えば、自分の場合は、研究と教育に関する経験・能力・人脈があり、ビジネスの経験やお金・売るモノはない。 よって、自身の能力をつかった研究教育のサービスをすることにした。 なお、以下はまだ何も成功していない自分が思う事であって本に書いてあったことではないので間違えている可能性も高いですが、 自分がもっている興味(固執するほどのモノ)が何かというのも、ここで考えて良いような気がしています。 というのは、固執しないモノには、アイデアが湧かない気がするからです。自分はそうでした。

B. 誰に、何を、どのように提供するか
誰に、などは、複数でもいい。個人的には、図にして考えたほうが考えは進みました。 → 「ansangaの例」
例えばansangaでは、全部やりたいことだが、もっともやりたいのは、研究者ではない人への提供。 しかし、お金になりにくいので、お金の稼ぎ方を3段階に考えた。 まずは、身近な研究者へのサービス。これも大して稼げないが、最初は導入しやすく、ギリギリの稼ぎは狙える可能性が高いと考えた。 次に、企業等の組織へのサービス。これも稼ぎは同じだが、うまく拡散すれば規模が大きくなると考えた。 こうなると、こちらも人手を増やすことができる。 職にこまっているPDをさそったり、副業できる人をさそったり、学生の稼ぎにしたりすることができると考えた。 最後に、一般の方々へのサービス。 ある程度まわってきたら、信頼と宣伝力をつかって、億単位の大きな仕事を見つける。 例えばお金持ちの実業家の人が、「世の中はこうだと思っている」と考えるならば、 そのうちのどれぐらいが科学的な仮説として発表できるものなのか、真剣にトライする。 その人の仮説をもとに、研究プロセスも相談をして、論文化する。 すなわち、パトロンのようでもあるが、パトロンではなく、本人の研究になる。 謝辞ではなくて著者に入って影響に残り、直接的に人類の英知に貢献するので、 社会貢献に興味がある人の中には大きな価値と感じる人がいるかもしれないと感じた。 この論文が世界の価値観を変えることもあるかもしれないし。 そうすると、そのお金をもとに、たとえば高校生や引退後の人たちには安くサービスを提供できるかもしれない。 でも全然上手くいく保証はない。
ぐらいしか考えていない。本当はビジネスモデルをしっかり考えるべきだろうけども、 自分の場合は理念優先でビジネスモデルはあまり考えていない。やりながら考えるつもり。 例えば、今はサービスを提供する相手からお金をもらうのではなく、お金は別のところからもらう、というサービスも多い(広告とかも含め)。 やっていくうちに色んな可能性があると思います(でも最低限稼げる可能性のあるサービスは必要なのでそれだけは開始したつもり)。

C. 競合との差別化
価値があっても、競合がいれば、そちらに流れる。 やっぱり自分の事業の強みと弱みを両方とも知っておくべきと思います。 強みがない事業なら、すこしでも競合がいると勝てない。 弱みがない事業なら、物凄く多くの競合がやっているはず。 ansangaの場合は、競合として、実験教室的なもの、コンサル等が提供するデータアナリスト、アカデミア間の無料の共同研究、などを考えた。
●実験教室的なものとの違いは、論文までいく本格的なものであること。 実はこれは弱みでもあり、これによって儲からないビジネスになってしまっている(だからみんなやらない)。 また、PhDであり、かつ、広い分野での研究経験が必要となるので(専門家が複数、とは違う)、やりにくい。 なんとか儲かるビジネスにして、こういう経験を持つ人を育てて、当たり前のビジネスしたいと思っています。
●コンサル等が提供するデータアナリストとの比較は、費用対効果。 圧倒的に安いし、特に基礎研究に関して、幅の広さとクオリティは多くの部分であまり負けないと思っている(もちろん専門性で圧倒的に負けるタスクもたくさんあるが)。
●共同研究との比較は、契約。「ごめん、忙しいから」とか、「忙しいから言いにくいなあ」とかがないのはかなりメリットなはず。 11月末までに結果を納品します、などが可能だと、色々と便利。 なお自分はこのビジネス自体に興味があって、とてもやる気満々だと自分でも感じるので、形的にもPerformanceも出そうに思っています。


個人事業か会社かを決める

個人事業主のメリットは、「自由」、「登記、定款、税務申告や会計処理など手続きがすべて不要または圧倒的にラク」、「会社登録などにかかる初期費用の30万円ぐらいが不要」。
会社にするメリットは、「手続きが多く公開部分も多いため信頼が得られる」こと、「稼ぎが大きくなると税金的に得をする」こと、がある。 ざっくりいって、所得が1000万円を超えてくると、会社にしたほうがメリットが大きくなる。
自分の場合は、なにより時間が無いし書類が苦手なので、最初は個人事業主の一択。 しかも、少なくとも最初はどんなにうまくいっても最大でも数百万しか稼げない(自分の時間をつかうのでそういうビジネス)し、 投資を受けるようなケースほど信頼が重要なわけではないので、個人事業主から始めて、うまくいけば会社にする、でベストだと考えた。

ちなみに消費税の免除は知らなかったのでおもしろかったです。消費税は、ざっくりいって前前年の売上が1000万円以下なら免除。 すなわち、2年間は前前年が存在しないので、消費税は払わなくていい。 ということで税込の取引になるが、会計書類には消費税を引いた分と、消費税をわけて書いたほうが先方にとってもいいらしい(もちろん合法、下記会計書類参照)。 最初はどうせ1000万円も売上がないので、そのまま続けばずっと消費税をはらうこともないが、 もし売り上げが大きくなってきたらば、会社に変えると、 会社に替えた時点でまた前前年が存在しなくなるので、1000万円以上でも最初の2年間は消費税が免除。 ただし、これは基本的にという話であって、いつでもというわけではなくて、払わないといけない場合もあるので注意。
なお、個人事業主としても申請しない、という方法もあり得る(合法)。 ただし、この場合も、もちろん利益は申告して税金を払わなくてはならず、これを怠ると脱税で捕まる。 また、その意味で、怪しまれる可能性も高くなる。 さらに、こういった消費税の免除や、以下の青色申告の優遇などもないので、メリットは基本的には無い。

※用語の説明。ざっくりいって、「売上とか収入とか」は入ってくるお金のこと、 「利益とか所得とか」はそこから必要経費を引いたもの、を指す。 税的な会計処理としては、事業において経費とは例えば交通費やパソコンなどの物品などを指していて、所得の計算時にはこれを引く。 雇用されている労働者の場合は、そういうのがないので(大学とか会社から与えられていてよくわからんので)、 ざっくりと決められたルールで「給与所得控除」として引く。 労働者の給料が全て課税対象にならないのはこのため。


名前(社名/屋号)を決める

個人事業主の場合は社名ではなく屋号という。以下のようなことに気を付けると良いと言われる。
・日本語でも英語でも誰もが同じように読めるもの
・登録商標されていない名前
・短くてシンプルなもの
・意味があるもの
・その他、成功する会社の名前の共通点などを調べている人もいるので調べてみる

2.開業の手続きをする

以下の三つが必要「個人事業の開業・廃業等届出書」、「青色申告承認申請書」、「事業開始等申告書」。ビックリするほどとっても簡単。

1.個人事業の開業・廃業等届出書

開業した日から1か月以内に納税地の税務署(例えば自分は吹田税務署、吹田市片山町3丁目16番22号)に提出。 開業届は公的なエビデンスとなり、事業を進めていく上で屋号入りの印鑑作成や融資、補助金・助成金申請の際に必要になる場面があります。 なので、必ず控え(マイナンバーを除いてくれてある)も印刷していき、税務署でハンコをもらって持ち帰り、スキャンもしておきましょう。 とにかく滅茶苦茶簡単で、例を見てもらえればわかりますが、一瞬で作成できます。 次の青色申告と一緒に税務署にもっていって(空いているし、担当者もみんな感じがいい)、10分ぐらいでOKです。 ちなみに例は、自分のモノの個人情報をXXXにしただけなので、XXXのところを書き換えるだけでOKです。空白はそのままでいいです。
参考URL
ここから様式pdfをダウンロード
ansangaの例


2.青色申告承認申請書

開業した日から2か月以内に納税地の税務署(上記と同じ)に提出。 上の開業届と一緒に出せばいい。 青色申告というのは、ちょっと頑張って詳しい収支の書類を提出すると、税を優遇してくれる、というもの (そうでない場合はとても簡単な書類で、白色)。 これをしていると、利益から103万円を差っ引いてくれる(e-taxだと113万円)。 ここでは勉強ということも考えると、これをやっておくに越したことは無い。 いまはソフト(下記)をつかえば、何も知らなくても書類作成をやってくれるので、出てきた後をみて実戦で会計を勉強すれことができる。 なので、白色申告もあるが、青色一択だと思う。 これも同じく証明書類となるので、必ずもう一部だけ追加で印刷していき、そちらにも税務署でハンコをもらって持ち帰り、スキャンもしておきましょう。 開業届と違って最初からマイナンバー記入部がないので、書式に控えがついていませんが、自分で2部持っていかないといけないので注意。
参考URL
ここから様式pdfをダウンロード
ansangaの例


3.事業開始等申告書

開業した日から1か月以内に都道府県税事務所(例えば自分は三島府税事務所、茨木市中穂積1丁目3番43号)に提出。 これだけ違うので忘れる人が多いらしい。書類もなんとなく気合が入っていない気もする。 これも同じく、必ずもう一部だけ追加で印刷していき、そちらにもハンコをもらって持ち帰り、スキャンもしておきましょう。 同じく、出しに行って、はいOKです、という感じですぐに終わります。ここも税務署と同じで、空いているし、なぜか人も感じがいい気がします。
参考URL
例えば大阪の場合は、ここから「事業開始・変更・廃止申告書」様式pdfまたはxlsをダウンロード
ansangaの例


3.実務上の準備

HPのためのサーバレンタル、メールアドレスの獲得

どんなページにするかによるが、自分は「さくらのレンタルサーバ(ライト)」にした。 とにかく安いし(1,543円/年)、クオリティにも全く困っていない。
同じところで、ドメインも購入した。 このレンタルサーバを契約すると、無料でいろんなドメインが作れる。 例えば、この個人ページ https://hosoda.nyanta.jp/ はタダで作った。
一方で、任意のドメインを作るには、また年間1000円ぐらいお金がいる。でも年間1000円ぐらいならまあいっか、と思って購入。 https://ansanga.com/ にできるので、ちょっと短い。
メールアドレスも、各ドメインに対して作れる。そんなにいらないけど xxx@ansanga.com とかをたくさん作れる。

ロゴの作成

権利がややこしい。フリーフォントですら、改造したりしてロゴに使うとダメだったりする。 なので、フォントを使うなら基本的にはM+FONTSがいいと思います→ リンク
なお自分の場合は、フォントを使うのも面倒だったので、イラストレーターを使って、丸と線だけで作成した。 うちに愛猫が5匹いるのでデザインに入れてみた。

銀行口座の作成

予算管理、確定申告など税金的にも、銀行口座をプライベートとわけるのは基本と思います。 その時に、普通の口座とビジネスの口座があります。 どちらでもいいですが、ビジネスの口座だと、口座名に屋号をつけることができて、信頼が増すようです。 ネット銀行が便利だと思います。 個人事業主用の口座があり、手続きが簡単で(ハンコとかいらない)、信頼もあるかなと思って、自分はジャパンネット銀行(三井住友銀行が元)にしました。 例えばAmazonBusinessとか、審査不要で入れます。 ただ、普通の口座の方がクレジットカード的にはポイントのメリットが有るとは思います↓。

クレジットカードの作成

これも、事業用に作ったほうがいいと思います。 管理にも便利ですし、他者に見せるときにわざわざプライベートを黒塗りするのは面倒です。 ポイントが大きいほうがいいと思うと、楽天やらリクルートやらのカードが良いのですが、実は銀行をビジネス口座にすると、これらのカードは申し込めません。 それがビジネス口座の損なところです。 ということで自分は、上記のビジネス口座に付属するクレジットカードを使っています。 即座に銀行から引かれるので、時間ラグが無く確定申告などで便利ということはあります。

印鑑の作成

個人の実印があれば、どうやら印鑑はなくても大丈夫なようです。 ただし、国立大学の業者登録で業者印が必要でしたので、私の場合はあんさんが研究舎の角印を作りました。 角印は届出不要で勝手に作るモノですので、気分的にも是非。

4.運営する

以下の項目を繰り返す、という感じかと思います。

各種会計書類

基本的には、見積書でみつもって仕事をして、納品書とともに納品し、請求書で請求してお金をもらったら、領収書を渡す、という流れです。 これら見積書、納品書、請求書、領収書は、5年間保存しておくことが法的な義務だそうです。全て2部作って、片方を手元に残しています。 ただし、銀行振込の場合には領収書は不要ですので、あんさんが研究舎では領収書を出したことはありません。
見積書例
納品書例
請求書例

契約書類

契約書が必要というわけではないですが、後々に揉めないためにもあったほうが良いとのことですので、例を添付します。 ただし、先方が大きな組織の場合には先方側にフォーマットがあることが多いですので、それに従います(よって、添付例は使ったことが無いです)。 あんさんが研究舎の場合は業務委託であるため、仕様書(業務前)や作業報告書(業務後)などのようなものが求められることがありました。 その他、完了通知書というものをつくり(様式自由)、先方にもサインしておいていただくと、後々に「まだ未完成だ」ということは無いようです。
契約書例

業務実施

これは事業次第ですね。頑張ってください(^O^)/

確定申告(これは年に一回)

毎年度、翌年2月16日から3月15日までの1か月間とのことみたいです。 今は会計のことを知らなくても、会計ソフトを使えば青色申告(確定申告)は自分でできます。 調べた感じ、メジャーな会計ソフトはマネーフォワードとFreeeの2択みたい。 とりあえずマネーフォワードを使ってみて、確定申告を行いました。 なにより良かったのは、ログインすると、「個人事業主の確定申告の流れ」というのが書いてあるので、それに従って一つずつやっていくとできました。 一度行えばなんとなくわかってくるのと、Webでの確定申告である「確定申告e-tax」でのシステムも補助してくれます。
【e-Tax】国税電子申告・納税システム(イータックス)

その他.大学教員の副業の場合

元々は常勤教員でした。 最初はもちろん、このままで起業できれば一番ラクだと思っていました。 自分は正直お金もいらないので、教務課程として必要なプロセスだし、稼ぎを全部大学に入れるぐらいなら、これでいけるんじゃないかと思いました。 また自分の雇用に決定権の有る教授からも、とにかく常勤にしておいてほしいと説得されました。 さらに事務方からも、なんとか常勤でやれないかというご協力をたくさんしてもらいました。 これぐらい周囲がみんな前向きで恵まれた状況でしたが、結局のところ、少なくとも大阪大学では、ルール上は常勤教員で起業することはできませんでした。
ということで、非常勤です。 こうなると、色々なメリットやデメリットがでてきて面白いです。 またこれは、あくまでも自分の目的の一つに、「学生の状況を模倣して、最もハードルの低い、一人起業をしてみる」 という縛りをつくったからであり、社長を別に立てて自分は役員兼業であれば常勤のままでも可能です。 色々とわかりましたので、まとめようと思います。

兼業規程

少なくとも阪大では、「兼業ハンドブック」があり、非常にわかりやすくなっています。 兼業できる時、できない時があり、いろんなケースに関して書いてあります。 原理的には、「職務専念義務」との折り合いになります。 阪大教員は、税金で給料が払われています。 また、裁量労働制であり、一日に1時間はたらいても、24時間働いても、同じ給料です。 すなわち、「夜の自分の時間に仕事するんだから兼業じゃなくて副業ですよね?」 みたいなことができません(夜も裁量労働の範囲なので)。 よって、「実働」があるかないかがポイントになってきます。 逆に、「報酬の有無」はそれほど重要では無かったりします。 この観点から、役員はいいけど、社長だけはダメ、となるようです。 「社長で働いてないってありえない」ということだそうです。 なので、他に社長を立てれば、役員兼業として可能です(もちろん可能な条件を満たせば)。
なお上記の理由により、「自営」は基本的にダメです。 なので、個人事業主はもってのほかです。働きまくりなので。 ただし、例外として、家業を継いだりする場合は認められるそうです。
総じて、税金で働いているという観点からも、特にルール自体がおかしいとは思いませんでした。 ただ、そうはいっても時代的に日本は厳しい状況です。 「これはダメだ」というルールもよくわかりますが、「どんどんイケ!」といわんばかりに、 大学教員をもっと社会でこき使って役立てるようなルールに改善する余地はあるかなとは思いました。

大学教員の事業に関わるおもしろい雰囲気

少なくとも阪大で、兼業について調べるときに、「どこに(誰に)聞けばいいのか?」ということに関する答えはありませんでした。 これはとても面白いと思いました。 まず、正しくは、兼業規程です。 この規程に合っていればOKで、ダメならばダメです。 ただ、「じゃあこの場合は?」とか、「微妙にこうなんだけどなんとかならない?」とか、そういうときには、どこかの裁量で決めることになると思います。 それを決める人が明らかではないんです。 まあ言ってしまえば、事務方の係長以上であればハンコを押して進める裁量はあると言えばあるとは思いますが、そこに判断を任せるのは辛いと思います。 少なくとも、何か咎められたときに「あの係長がOKっていいました」とは言いたくないですし、そのため、係長もOKとは言えないでしょう。 もちろん産学連携の先生方が常に強力にサポートしてくれるのですが、多くの先生が非正規、なんなら非常勤です。 責任とるとかそういう立場ではないようにも思います。
咎められる場合は、大体は社会に咎められるわけですが、社会における善悪は時間的に変わります。 例えば、昔は阪大も社長OKでした。 なので、今の教授でも社長を兼業している人が残っています。 しかし、「公務員なのに自分だけ儲けるのはせこい」という風潮があった時に、厳しくなったそうです。 一方で、最近の経産省のレポートを見ると、もっと事業に関わるべきなのにルールが足を引っ張っている、という趣旨の報告が多いです。 すなわち、社会的にお金を稼ぐことが、善→悪→善となりつつあります。 逆にいえば、ここでOKを出した時に、もうすぐ悪になりかねない、その時に、その判断が咎められる可能性がある、みたいな恐れがあります。 公務員でそれをやると、殺人級に咎められるので、判断が下せない。 みたいな状況に思いました。 個人的には、実際のところ殺人級に咎められるわけではないでしょうし、 きちんと説明すれば良いだけのように思いますが、たぶん特に日本文化としては簡単ではないかも。 もう少しどこか低い位置に(理事とかだけじゃなくて)明確に一旦責任のある場所を置いて、そこに決定権とリーダーシップがあることが必要なのだと思いました。

非常勤の社会保険

常勤から非常勤になると、これも気になると思います。 しかし、何が変わるのかを聞いてもいまいちちゃんと説明してくれる人はいません。 特に、自分のケースのように、常勤から非常勤(週30時間)への変化はそれほど多くはないです。 最高の印象がある国家公務員共済から落ちていく雰囲気があるので、不安も大きくなりがちに思います。 この見えない不安によってフットワークが悪くなっている気もします。 なので、自分のケースに関して紹介します。 結論から言うと、少なくとも自分にとっては、生死や幸せという意味ではあまり変わらないように思います。

次もちょっと前提知識ですが、社会保険とは、健康保険(病院とか)と年金(高齢者時)です。 社会保険(会社などで働いている)に入っていない人は、国民健康保険と国民年金に入りますので、日本人は社会保険or国民保険、ということになります。 社会保険の中には、公務員の「共済」と、大企業の「組合健保」、それ以外の会社員などの「協会けんぽ」の3種類があります。 自分のような非常勤(週30時間)のケースでは「協会けんぽ」に加入することになります。 共済の場合は、自治体などによって少し違い、組合健保は会社によって少し違いますが、 健康保険も年金も基本的なことはほとんど変わらないです。

健康保険は基本的なことはあまり変わりません。 3つのいずれであっても、病院に行けば同じぐらいちゃんと安くなります。 健康保険の中で最も違う点は「付加給付」だと思います。 「共済」や「組合健保」では、だいたい「1カ月の自己負担額は2万5千円が上限」などと決まっています。 どんなに高くても、2万5千円なのは驚きです。 正直、各人で「今のため」に、任意の医療保険に入る必要性はあまりないです (資産運用としての意味はあります。 また保険の効かない先端医療や老後のためという意味は大きいです。 あとは、社会保障制度の破たんに備える、というのも大きいかもです。沢山意味ありますね)。 こうなると、「協会けんぽ」はかなり不利な気にもなっちゃいます。 ただ、実は誰であってもそもそも「高額療養費制度」というのがあって、 所得によって違えど、ざっくりいうと10万円+[医療費の1%]です。 つまり、1千万円の医療費でも、10万円+10万円=20万円、となります。 まじっすか?という感じですが、実際にそうでした。 まあ1千万円程度の医療を受けることはまずないと思いますが、 それでも20万円ぐらいで済むので、大して変わらないと言えば変わらないなと思えます。 高い、と思うこともできますが、気にしなければ、生死や幸せには影響しないレベルと思います。 ちなみにそんな時には医療保険が効いてくると思いますので、その意味でも。 それにしても、なんて保障の効いた社会なんでしょうね・・・。 医療費無料のイギリスなどでは、それによって病院に行ってもその日には見てもらえないと聞きます。 日本は高度な医療がその日にうけられて、この保障です。 そりゃあお金足りないわな、としみじみ思います。 ちなみに、共済も組合健保もほとんどのところが赤字で、破たんしています。 組合健保の中には協会けんぽより悪くなったので協会けんぽに移行、というのも増えているそうです。

あとは年金ですが、これも大して変わらないです。 違いは、まずはちょっとだけ共済や組合健保が安いというのがあります(健康保険と年金を含めた保険料)。 給与の1%ぐらいは違ってくるかもしれません。 この違いは大きい、と思うこともできますが、やはり気にしなければ、生死や幸せには全然影響しないレベルと思います。 基本的に日本の年金は3階建て構造をとっていて、 1階は国民年金で、全国民が同じです。 2階は厚生年金で、社会保険に入っていれば、国家公務員共済でも協会けんぽでも変わりません。 ここまでが公的年金です。 そして、3階は勝手にやっているもので、ここに違いが出てきます。 要するに退職金などです。 2階までは国の制度なので平等な話ですが、3階はもはや勝手にやっていて給料みたいなもんなので、 給料を貯めといてくれた、という感じかと思います。 これは、非常勤、というか常勤でも非正規(特任教員等)ならばどのみち、自分で貯めることになるかと思います。

※以上のことで注意していただきたいのは、非常勤(週29時間)と、非常勤(週30時間)が大きく違うところです。 週30時間以上だと大学で協会けんぽにはいります。 非常勤は最大で30時間なので、非常勤としてのフル勤務だと、協会けんぽです。 それ未満だと、国民保険となります。

非常勤のエフォート管理

ここでは、大学教員のエフォート管理、特任教員のエフォート管理、非常勤のエフォート管理、と説明したいです。 こういうの、そこそこハードルだったりしますので。 エフォート管理とは、どういうタスクに何%だけ働いているか、ちゃんと管理せよ、というものです。 例えば研究費を申請するときには、研究Aに30%、研究Bに30%、日ごろの教育業務に40%、などと宣言して申請します。 ここで、特任教員はちょっと辛くなります。 正規の教員は、全てが業務なので良いのですが、特任教員はタスクを特定されて雇用されています。 それは大きなプロジェクトの場合が多いです。 一方で、個人で取得する科研費などの場合は、それとは独立である必要があります。 すると、特任教員のタスクと異なってきます。 プロジェクトのために税金で雇われているのに、別の研究に時間を使ってはいけません。 なので、「こういう理由でこれらは別のモノだが、お互いに利益があるので職務も満たしている」 みたいなことを説明し(実際にそうなので)、例えば20%などを上限として、研究をしたりします。 ちなみにこれすらも許可しないと、研究業績の無い教員はキャリアを続けられないので、若い才能をつぶすことになって社会の損失だと思います。

しかし、それすらも許されない場合があります。 たとえば教育プログラムなどだと、研究していると「おい教育せえや」となります。 私は6年間そういうプログラムで働いてきました。 しかし教育と言っても研究を教育するわけであって、研究も運営していない人がこれを務められるわけもなく、 おかしな話でやはり社会的損失だと思いますが、 まあそういうルールにしないと理解が得られないというのもわかります(変えていきたいですけど)。 すなわち研究者なので、研究せずに業績が無いと、次の研究ポストはありませんが、研究するために給与が出ているわけではないというジレンマがあります。 このために、特任教員はいろんな方法で頑張らないといけません。 一つの方法として、間接経費でエフォートを買う、という方法があります。 実は「給料10%に減らしてもらっても構わないので、10%のエフォートを科研費に使いたい」というのは通りませんでした。 大学の規程で給料が決まっているからです。 しかし、「間接経費で給料の10%をはらい、メインプロジェクトのお金で給料の90%を払う」は可能です。 なんとかなるものですね。

そして非常勤の場合は少し異なります。 そもそもエフォートは、「一週間でどれだけ働いたかの実際のところ」みたいなかんじです。 だとすると、一日の実質労働が8時間の人と、12時間の人では変わってくるはずです。 しかし、常勤は裁量労働なので、どっちにしたってダメです。 ところが、非常勤はちゃんと時間が決まっています。 毎日、出勤と退勤を押しますので、それ以外の時間は自由です。 すなわち、「自分の月曜日は、8時間はプロジェクトで有給で働いた後、5時間は科研費の業務を無給で行います」みたいな話が通ります。 ものすごく自由度があがります。 もちろん、科研費での研究を労働と考えると、無給なのでブラックですが、 やりたくてやっているなら便利ですね。 ちなみに、やりたくてやっている、というのは日本ならではらしく、自分はかなり好きです。 そこに給料は出てなくても、やりたくてやっているし、自分の血肉となって間接的に別の給料につながるし、 やりたいことやって社会に役立つならハッピーだと思います。

あと一点、非常勤になると申請できる研究費が減るので注意です。 特に、企業からの奨励金などはほとんどのものが申請できなくなります。 それでも、こういう状況をサポートしたいと考える企業様もあり、 状況を説明するとOKといってくれるところもあります(通るかどうかはわかりませんが)。

おわり

・トップと目次